ラスト・すかいらーく

 先日、すかいらーくの最後の店が閉店と聞いて久々に川口へ。

 すかいらーくは私のレストランデビューの場所であった。子供の頃は月イチペースで親に連れて行ってもらったものだ。父が一番高いビーフステーキを注文するのに対し、母や子供はそれより安いメニューで遠慮するという小市民的家族。私はいつもガーリックチキンかもろみチキンのステーキ。使い慣れないフォークとナイフでぎこちなく食べた。テレビで見た西洋料理の片鱗を味わうのが誇らしげなようで、でも自分には場違いな気がして、いつも緊張していた覚えがある。まだコンビニもほとんどない時代のことだ。
 次第に照れ臭くなって親と一緒に外食へ行かなくなった。自分で給料を稼ぐようになってからはそんな安っぽい所と馬鹿にした。しばらく行かないうちに近所のすかいらーくはいつの間にかガストに変わっていた。すかいらーくとは全く違う店だったが、安いからいいやと別に気にも留めなかった。たまに地元の友人と話すのに使ったけれど、年を重ねていくと話す機会も減り、ファミレス自体滅多に行かなくなった。

 昔、川口に住んでいたので前を何度か通過したが、川口新郷店は初めて行く店だ。敷地内を植木や鉢植えででリゾート風にアレンジしてあった。ドアを開くと平日の午後3時だというのに、空席待ちの客が5名。厨房と客席から聞こえる騒がしい音で盛況なのがわかる。私みたいに好奇心で遠くからやってきている客もいるのだろう。かなり回転が早いらしく、数分待っただけですぐ席に案内された。
 財布を確認したら、しまった、千円札が1枚しかなかった。すでに席に座ってしまった以上、これから金を下ろしに行くのも気が引けるので仕方なく1000円で収まるように注文。すかいらーくハンバーグとライス。待っている間に店員がお冷を追加してくれた。

 混雑の割には料理が早く到着。恐らく焼き場担当が午後3時だったから手が空いていたのだろう。ジュウジュウと鉄板で音を立てるハンバーグの付け合せにはクレソン、コーンとブロッコリ。そしてデミグラスソース。今の他店なら下手すると400円前後になるメニューが単品で714円+ライス210円。味は想像通りで、恐らくガストのそれと原料は同じ気がする。だが焼き具合はいい感じにウェルダンだった。「やわらか~い」なんてものより、私は多少歯ごたえのある方が好きだ。クレソンは別に旨いものではないが、その苦い味で懐かしい気分になった。

 しかしガストや他の店では感じないもっと懐かしいものがあった。サービスだ。店員は忙しなく動きながらも気配りを忘れず、食べ終わった食器やお冷の追加などこまめに行っていた。また笑顔で生き生きとした接客だった。同じチェーン店でも差はあるのだろう。だが、恐らくこれが最後まですかいらーくを守り続けた店の実力なのだろう。「ガストとは違う」という店員の意気込みのようなものを感じた。全国最後の店の最終営業という高揚感もあったのかも知れない。しかしそこには他店で見るマニュアル対応がなかった気がする。「○○へようこそ」という口先だけのもてなしではない、プラスαが確実にあった。

 最近は私が親を外食に連れて行くようになった。色々な店を巡るが、不愉快になる程ではないが当たり障りのない対応の店が多くなった。いわゆるマニュアル通りの対応。以前ガストに行ったときには、空席に食べ終わった食器が放置され、無駄な動きで回転が悪く、なおかつ若い店員に笑顔がなかった。値段も相応なのでこちらも不満はない。むしろ安い時給で働かされているバイト店員に高いサービスを求めるのは酷だ。会社の経営方針が悪いんじゃない。低価格のためならサービスは要らないと言う程、客の質も落ちたのだ。
 高い店に行けばいいと思う人もいるかもしれない。だが実際はそういう店にも質の悪い客が多い。他人の奢りで某ホテルの最上階のレストランで食事したこともあるが、宴席でガハガハ騒ぐ客がいたのも事実。この間も市内で一番高い鰻店で同じ目に遭った。金さえ払えば何をしても構わないという態度の人間を最近あちこちで見かける気がする。そんな客ばかりのこの世の中、もてなす心は無駄と切り捨てなければいけない時代なのかもしれない。