120%

昨日は夏に向けた課題曲のため、先生と奏法を相談しながらレッスン。ヴァイオリン用の譜面ではないので色々と調整が必要になって大変な事に。

ヴァイオリンには様々な奏法があるが、レッスン用の譜面には指使いや弓使いが記譜されているのでそれに従えばいい。だがちょっと凝った曲をやろうとしたら、そんな懇切丁寧に書いてある楽譜などない。とはいえプロの間では暗黙のルールと言うか「ここはこれ」という常識が存在する。アウフタクト(裏拍)では上げ弓とか、弱拍は先弓とか。私はそこまでわからないのでプリントした楽譜を先生に渡し、レッスンしながら注釈を入れてもらうことにした。

しかし表現方法はその他に沢山あり、演奏家の感性で曲を解釈して奏法を選択しなくてはならない。だから同じ曲であっても演奏によって表現が異なるため様々なバリエーションが生まれる。どうやら私の選んだ曲は先生の芸術家魂を燃え上がらせてしまったらしい。最初は私に弾かせていた先生も、途中から自分の楽器も引っ張り出して試行錯誤を始めた。1フレーズ弾いたら鉛筆で書き込んだり、その後ゴシゴシ消したり。刻みの16分音符をスラーに書き直したり、上げ弓を下げ弓に変えたり、私の作った譜面にどんどん書き込みが加えられた。場所によっては装飾音(トリル)やオクターヴ下げまで行われ、ちょっとした編曲状態。私はその意見に口出しできるはずもなく、どんどん演奏の難易度が上げられた。

「ハイ、これで弾いてみて」と習ったこともない奏法を要求される。ていうか目が怖い。逆らえない。自分でPC入力したとはいえ、自分で試しに弾いてみたりもしなかったのでほぼ初見で先生の指示に従って弾いた。だがこのときは自分でも信じられないぐらい弾けた。ヘタはヘタなんだけれどいつもよりヴィブラートもきっちりできていたし。これはイケるかもしれないっ。

結局いつもよりレッスン時間を10分オーバーしたが、先生はまだ納得がいかないらしく「また次考えましょう」ということでレッスン終了。帰宅したらぐったり。いつもなら日付が変わってもだらだらしているのに、マウスを持つ腕が痛くて早めに就寝してしまった。

朝起きてヴァイオリンを構えたら昨日弾けたフレーズが全然弾けなかった。ヴィブラートもいつもの通りガタガタ。どうやらレッスン中は120%の力を発揮していたらしい。ガックリ。

もっと光を

「輪番停電」などという聞き慣れない言葉を聞いたかと思ったらいきなり始まってしまい、この辺でもすでに何回か実施されている。なかなか不便だが、被災地の苦労を考えれば致し方ない。

しかし「計画停電」の別名に反し無計画で始まりと終わりの時間がハッキリしない。大体私は元から生活パターンが崩れていて「食べたいときに食べる、寝たいときに寝る」という無計画人間。無計画×2ですっかり生活のリズムが狂ってしまった。

これはイカンと思い、電気が消えている間は停電の影響を受けない完全アナログ楽器、ヴァイオリンを練習する計画を立ててみた。この日は15時20分~19時00分頃の予定となっていたのだが、15時40分に開始。始めは部屋も明るかったので余裕。コーヒー淹れてちまちま休憩しつつ、キコキコと弾いていた。

段々暗くなってきたのでロウソクやLEDの電池式ライトを点けて譜面をにらみつける。モーツァルトとかの時代はこうやってアイネ・クライネ・ナハトムジークとか弾いていたのかしらんと思いながらさらにキコキコ。だが最近老眼が始まってきたので薄暗いとつらい。体力がどんどん消耗する。5分弾いちゃ10分休憩、3分弾いちゃ15分休憩とだんだん休憩の比率が多くなる。しかしコーヒーはすでに5杯飲んだ。スマイル40EXの差しすぎで目もショボショボする。暗くて何もできないから間が持たない。楽器の練習とは孤独との闘い、8割方が苦痛だというのに。暗闇の中で気が狂いそうになる。ムキーッ!

結局その日は19時40分頃になってようやく電気が点った。もうすでにヘトヘトで何もする気が起きなかった。とりあえずネットでも見て気を紛らわそうかと思ったら、光回線のホームゲートウェイがエラーを出している。機械の再起動を何度も試みたり、数時間放置してもネットに全くつながらない。携帯でISPのサポセンに電話をかけたが10分待ってもつながらない。きいいいいっ!

ゲーテは臨終の際にこう叫んだという。「もっと光を!」

はあ…もう、心が折れそう…

三段跳び

前回、ピアノソロの譜面からメロディラインを抜き出す作業をして、それでヴァイオリンを弾こうとういう話までは書いた。その譜面のメロディはわかりやすく分割してあるので、初見で弾けないヘタレな私でもそれ自体は簡単な作業だった。問題はその抜き出した楽譜。これをヴァイオリンで演奏するのが超絶に難しい。いや超絶は言い過ぎで、ようやく習い始めて1年経ったヘタレレベルの私にとって難しいだけだが。

五線譜の範囲で表現できない低音や高音は、その線からはみ出して「加線」という短い線を定規のように引き、音符にくっつけて表現できる。だが今回採譜していたら加線が3本の高い音があった。パッと見だと何の音だかわからないほど高い音だが、よく見たら「ミ」だ。ピアノだと真ン中のドより2オクターブ+3度上の「ミ」。ていうか今習ってる範囲の音じゃないぞ? 指の位置がさっぱりわからない。

先生に聞いたら第5ポジションという手のひらをネックの付け根に添えて弾く音らしい。私はまだポジション移動を習っていない第1ポジションのレベル。だが「テリーのテーマ」のサビは第1→第3→第5ポジションとダイナミックに指を移動させないとならない。いわゆる三段跳び。先生は「夏まであるから大丈夫よ」と言うが大丈夫なのか? いや、どう考えても大丈夫じゃない。何せ指が浮いたら頼りにする目印がなくなるし、指の位置が肉体的にも音程的にもシビアになる。そしてさらにフラジオレット奏法という課題が加わった。小指1本だけで軽く弦に触れながら弾いて口笛のような音を出す高等テクニックで、1ミリの誤差も許されないシビアな奏法。私のワガママのためにエライことになってしもた。

まあなるようになれと思いつつ、今は慣れないヘ長調(Fメジャー)の音階をひたすら練習中。でも憧れの曲だけに汚したくないという思いもある。がんがるぞ。

なお、今回採譜とプリントのために使ったソフトは Finale NotePad というもの。楽譜作成ソフトのデファクトスタンダード Finale の入門バージョンで、この2008は無料で使えた最後のバージョン。この程度の楽譜であれば全く問題ないというか、プリントもできて無料とは思えない素晴らしい出来栄えに。このバージョンは既に配布が終了しており、現在のバージョン2011は有料。とはいえ1,050円だけど。安いだけあって他のグレードより機能制限が大きいのでただ今グレードアップを考え中(→Finale ファミリー製品仕様比較)。

それはそうと今回の画像にいちいち mezzo.jp とうるさく入れたのは著作権対策。さすがにアメリカの出版社は敵に回したくない

憧れの曲

こないだわざわざ銀座まで行って買ったのはこれ。The Songs of Charlie Chaplin というチャップリンが映画の挿入歌として作曲した歌曲集。

喜劇王チャップリンについては誰もが知っているとは思うが、彼がマルチタレントであったことは案外知られていないかもしれない。映画制作において主演・監督・脚本・音楽・演出など、あらゆるものを一人でこなし、その全てにおいて優れた才能を発揮した天才肌の人だったりするのだ。自分で譜面を書いたり読んだりは出来なかったらしいが、独学でヴァイオリンやチェロを弾き、それを編曲家に聞かせて譜面に起こさせたらしい。

映画についてはだいぶ前に観たっきりおぼろげな記憶しかないのだが、音楽については今でも強く印象に残っている。なのでヴァイオリンをやり始めた頃から何となく、最終目標として映画「ライムライト (Limelight) 」の主題曲「テリーのテーマ (The Terry Theme) 」を弾きたいと思っていた。ヴァイオリンの先生にもその事は話していたのだが、今年の夏の発表会の曲を決めることになって「どうせなら演りましょう」ということになってしまった。

アメリカの著作権法は某ネズミーの会社が議会に圧力をかけて著作者の死後75年まで延長されているのでチャップリンの版権はまだ残っている。なのでネットにフリーの楽譜があるわけでなく、入手がなかなか難しかった。ようやく先日の混乱の中で入手できたのだが、しかしヴァイオリン譜ではない。先生に見せたら「歌ものでも大丈夫よ」という話になって結局モダンタイムズの挿入歌「スマイル (Smile)」についてはそのまま歌詞の部分のメロディを弾くことになった。

ところが入手した楽譜の「テリーのテーマ (The Terry Theme) 」についてはピアノソロ用の譜面。メロディラインがピアノの大譜表(ト音記号とハ音記号の2段のやつ)に埋もれているのでそのままじゃヴァイオリンで弾けない。仕方なく一番高い音を抜き出して譜面を作り先生に見せたら「あなたはホント凝り性よねぇ」と感心されながら「これで行きましょう」ということになった。他の生徒さんは普段使っている練習曲集とかから選んでいるみたいだけれど、つくづく私ってワガママな奴である。

しかし、このワガママがまさかこんなことになろうとは…多分、続く。