スル・タスト/ポンティチェロ

最近、自分の行動に音楽記号を無意識につけてしまう。バイクで走っていて、徐々にスピードを落として止まるときにdim.(ディミヌエンド=だんだん弱く)。洗濯物を干す際にしわを伸ばしているときは(フェルマータ=音を伸ばす)。仕事の電話応対で意識して抑揚をつけるときは(クレッシェンド)や(デクレッシェンド)、という具合に。音楽を頭ごなしに理解しようとすると仕事や生活にまで影響が及んでしまう単純脳。

で、こないだの演奏会で他の生徒の演奏を見て思ったこと。合奏中、割とスル・タスト(sul tasto)で弾いている人が多い。スル・タストとはイタリア語で「指板の上で」という意味。ヴァイオリンの奏法の一つで弓を指板寄りに弾くこと。でも案外他の生徒と会話するとこういう用語を知らなかったりする。というか「わからないことがあったら○○さんに聞いてみれば?」という風に、ヴァイオリン教室の私のポジションがヴァイオリン博士っぽくなっている。先生まで他の生徒に「○○さんに聞けばわかるよ」と言っている始末。ああ、やっぱりここでもそうなるか…

それはともかく、ヴァイオリンなどの擦弦楽器は弓を弦のどの位置で弾くかで音色と音量が変わる。通常は駒と指板の端のちょうど真ん中あたりに弓を持って行くのだが、駒寄りに弾くと音量が大きくなるがギイギイ言い出す。これがスル・ポンティチェロ(sul ponticello)。指板に近いところだと音量が控えめでおとなしい音になる。これが前述のスル・タスト。

何故かなぁと思ったら音量が鳴らない代わりに音がぼんやりしてひっくり返らないから。おそらく本人は意識はしていないのだろうが、合奏でボウイングミスが目立たないように自然とそう弾くようになったんだろうと思う。でもみんながそれやったらさぞかし貧弱な音になりそうな気がする。自分はマトモに弾けないクセして他人の粗はすぐわかる嫌なやつ。以前もヴァイオリンの先生宅でビデオ鑑賞会をしたときに、他の生徒の重心のブレについて指摘したら先生に感心されたし。スル・タストで弾いている本人に言わないであとで先生にチクッたろ。

「巨匠」と呼ばれる著名なヴァイオリニストの演奏に触れた人たちは口々に「音がでかい」と言っているそうな。ヴァイオリンは力任せに弾いても音は大きくならない。おそらくスル・ポンティチェロ気味でも正確に弓をコントロールして音を裏返らせることなく弾いているに違いない。「ff(フォルテシモ=ごく強く)を鳴らせない者はpp(ピアニシモ=ごく弱く)も鳴らせない」という誰かの言葉を信じて最近はなるべくスル・ポンティチェロ気味で音をきれいに鳴らせるようボウイング練習をしている。だが弓の角度がちょっと斜めになると黒板をキーッて鳴らすような殺人音波になる。だから練習中、前より下手になった気がして精神上よろしくない。ていうか頭デッカチな自主練ばかりで本当に上手くなっているのだろうか…

え? あ? 今日ってクリスマス?