万年初心者を名乗らない

動画撮ってみた

さて、だいぶ経ってしまったが、今月頭に行われたヴァイオリン発表会の反省を。

楽器演奏というものはどんなに上手くなっても必ず反省するところがあるもの。むしろ反省しなくなるとそこから劣化する。なのでいつまで経っても「完璧に出来た」と言えない。これは巨匠と呼ばれる著名なヴァイオリニストであってもそうらしい。以前にもさらに以前にもそんなことを書いたが、結局芸術や創作活動には終わりがなく、人は未完成のままこの世を去るのだろう。おお、何か哲学的。

と、とりあえず言い訳のための前置きが終わった所で反省点。

今回はJVC の ADIXXION GC-XA2を購入し、先生の許可をもらってステージ上にミニ三脚で固定して動画撮影してみた。本当はバイクの走行シーンを撮るために購入したのだが、ツーリングに行く暇もないので有効活用。もっと寄った絵が欲しいところだが、本来ウェアラブルカメラなのでレンズが広角気味。グッと寄らないと遠くなるし、デジタルズームを使うと画素が荒くなるからこんな絵に(無論、この動画をアップするなどという選択肢はない)。

録音はモノラルだが、音は結構クリアに録れていたのであちこちミスをしていたり、音が外れていたりというのが痛いほど確認できた。私は恥をどこかに置いてきた男なので、ステージ上で緊張などしないから、実に良くも悪くもない「いつもの実力」の私が映っていた。恥ずらかしい。

だが当日見れなかった人にこの動画を見せた時の反応がなんとも微妙。というか「無反応」。感想を聞いてみても上手いとも下手とも言わない。「ふーん」で終わってしまう。しまいにゃ「よくわかんない」と言われる始末。

実は当日、演奏後に多くの人からお褒めの言葉を頂いた。私よりずっと経験年数が多く、コンチェルトが弾ける上級者の女の子たち。内輪のお世辞に聞こえるかも知れないが、それぞれ自分の評価にシビア。人の批評もしないがお世辞を言うような事もしない。しかしヴァイオリンの曲を知らない人たちに聞かすと「よくわからない」という感想になってしまう。

今回弾いた曲は「タイスの瞑想曲」という、マスネが書いたオペラの間奏曲。今ではほとんど上演されないため、この曲だけがヴァイオリン曲として残っている、発表会のド定番曲。おそらくほとんどの人が「どこかで聞いたことある」けれど曲名は知らない。

ヴァイオリンのレベルとしては上級の初級ぐらい。ゆっくり聴こえるが緩急が激しく、3連符5連符、シンコペーションとリズムが複雑。ポジション移動が多く、スライド、フラジオレットもあり、難易度はそれなりに高い。そのため初めは1小節すらマトモに弾けず、テンポも音程も全く取れず、自分でも何の曲だか聞き取れないし、メロディすら覚えられなかった。

ぐちゃぐちゃ

それを何とか Youtube の動画を何百回と繰り返し聞いて音を覚え、その音に近づけるよう反復練習。途中ヴァイオリンの持ち方を見直したりしてG線の第5ポジション(ネックの付け根まで左手の親指が来て、胴を覆い隠すような姿勢)も何とかクリア。譜面の注意書きが増えすぎて音符が読めなくなった頃、数ヶ月かけてようやく騙し騙し徹して弾けるようになった。かなりギリギリな感じ。

今回、もちろん理想とは程遠い出来だったが、大きく音が外れたり裏返りったり、リズムが崩れたりもしなかった。いわば「無難にこなした」感。だからこの曲を経験した人は難しさを知っているので、弾けるだけでも凄いと思ってくれる。しかし無難な音楽が人の心を動かすわけがない。

先に「完璧にはならない」と「言い訳」を書いたが、それは「完璧を目指さなくてもいい」ということではない。色々多忙ではあったが、発表会が近くなって暑さでバテて休日はグダグダしていた事が多かった気がする。練習する時間は作ればもっと取れたはずなのに、ある程度弾けて「あともうちょい」の所で妥協してしまったのだ。

前回は必死だったが、今回はそんな必死さも足りなかった。いや、少なくとも6月ぐらいまでは全く弾けなかったので必死だったのだが。緊張しないのもあるがステージ上で必死に弾いていなかった。いや余裕があったわけではないけれど(でも途中観客の顔を見るぐらいの余裕はあった)。下手でも必死にやっていれば人には何か伝わるものだが、それがないから何も伝わらない。「ふーん」で終わってしまうのだ。

私はずっとこのブログでも「万年初心者」を名乗っていたが、それはやはり甘えだ。初心者を免罪符にして「難しい曲は弾けましぇん」と言い訳しているからダメなのだ。もう堂々と「中級者」を名乗ろう。そして「中級者ならこれくらい余裕で弾けないと」と自分を追い込むようにしよう。

あえて「あの曲が弾けるまで」などと最終目標を決めていないのだが、人から金を取れるぐらいの腕にはなりたい。ていうかそれってプロやん。無茶言うなと思われるかもしれないが、やはり目標は高く持とう。何たって、私にはまだ2年早いと思っていたこの曲が「曲がりなり」にも弾けるようになったんだから。

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林裕さんのお仕事

久々全力作業

拙ブログで以前ナポレオンのコラージュを公開したのだが、それを見て「ぜひ」とお仕事をご依頼された。チェリストの林裕さん。なんか調べてみたらすごい人だった。ひえー。

たまに会社の同僚やら知り合いからチラシやデザインの仕事を頼まれる事があるのだが、基本個人的なものはお請けしていない。昔、デザイン会社で過労が祟って体を壊したのもあるし、それに知り合いは「チャチャッとやってくれればいいから」などと格安に作らせようとする魂胆が見え見えだし(そう言いながら注文がうるさかったりする)。

でも今回まったくの初対面だった(というか今でも全部メール連絡で電話もしていない)が、何か珍しく心に火が着いたので、7~8月は合宿やら発表会、会社の行事などでスケジュールがキツかったのだがお請けした。

8月に入ってから1週間ぐらいで集中して仕上げたのだが、会社から帰宅したあとの深夜作業が続いたのでヘロヘロ。こちらも写真素材に文句をつけて撮り直させたが、先方もこだわりがすごくて何度もリテイクさせられたり。最近デザインの手を抜くことを覚えてしまった私にはいい刺激になった。何よりこういうギャグを手を抜かずにやるのは楽しい。今週はずっと寝不足だったけれど(会社で意識失いそうになった)。

さて、そんな私のどうでもいい苦労話(?)なんかよりも林さんのCDを買って聴いてみたのでちょっと感想を。以前勤めていたデザイン会社にあったデザイン入門書に「広告を作るには商品を好きになれ」と書いてあったし。

最近発売されたばかりの「SERGEY SQUARED」はピアノとの二重奏。二人の「セルゲイ」の名を持つ作曲家ラフマニノフとプロコイエフのソナタを主に取り上げたもの。

林裕さんのCD

私はそんなにクラシックには詳しくないので、作曲者名は知っていても全部初めて聴いた。林さん自身が埋もれそうなチェロの名曲を発掘する活動をされているので、そんなに有名な曲ではないのだろう(私の不勉強なだけなのかもしれないが)。作業のBGMに聴きながらと思い再生してみたのだが、とてもじゃないがBGMになど使えない。重厚で聴き入ってしまうのだ。

ラフマニノフはピアニストとしても活動していて、とても手が大きく離れた鍵盤を難なく同時に叩けたらしく、ピアニスト泣かせの曲を書いたと聞いた事がある。なるほど、鍵盤や指板を端から端まで使っているような、低音域をゴリゴリしながらも高音域で美しく物悲しい旋律。チェロが入るとさらにそこに厚みが増し、時に音圧に押し潰されそうになり、時に静かな森のような清涼感を漂わせる。ピチカート奏法(指で弦を弾く)を多用しつつ表情に変化を加えてピアノと絡み合う。

プロコイエフのチェロソナタはロシアの大陸を思わせるような威風堂々なアンダンテから始まり、時にギターのような叩きつけるようなピチカートで驚かせるかと思えば、次のモデラートではエリック・サティのような不思議な旋律がピアノと絡み合う。音が軽やかに上下していくのを聴いていると、腹にズンと響くような低音から、ヴァイオリンのような澄んだ高音まで出せてチェロってつくづくズルいと思う。

最後の曲はアルツシューラーの曲でとても珍しい曲だそう。とはいえロマン派を思わせるような美しい曲。終わりの方で人工フラジオレット(低音側を指で押さえ、他の指は弦に軽く触れて倍音を響かせる高度なテクニック)は山の彼方から聞こえてくる口笛のような音色が素晴らしい。

そしてもう1枚「林裕 独奏チェロ・コレクション SOLOist」はチェロ独奏という意欲作。通常合奏に使われる楽器で伴奏もなしに演るのはキワモノ的なものが多いが、私はこっちの方が好き。いきなりヴァイオリンの超絶技巧曲で有名なパガニーニから。正直言うと「何ですかこの人は」。チェロでここまで弾けたらヴァイオリン要らないじゃん。せせらぎのような美しいメロディからリズミカルな弓さばき。厚みのある重音。オノマトペで表現すると「ガリッ」「ボンボボン」「ボヒュゥイン」「ガキン」「ギュイギュイ」「ヒュイ~ン」って感じに色んな音が出せる。それでいながらちゃんと調和してキワモノ臭がしないのは確かなテクニックがあるからこそ。ズルいズルいっ!

恐らく世界的にも録音している人がほとんどいない、チェリスト作曲による珍曲が収められているので、クラシックファン/チェロ奏者は必携じゃないかしらん(と、陳腐な表現)。うんスゴいよ、この林って人。ボウイングもピチカートもとんでもなく上手い人じゃん。二弦同時に弾いても各々音量とビブラートをコントロールしているし。というかこんな私が仕事請けちゃってよかったのかしらん・・・などと思いながら作業の手が止まってBGMには出来なかった。おかげでさらに寝不足。はふうん。

・・・などとご本人が読んでいらっしゃるかもしれないのに、こんなの書き散らしていいのかしらん。兎にも角にもこうした素晴らしい機会を与えてくださった、林裕さんに感謝します。右にお仕事させてもらったリサイタルのバナー貼っておきましたので、興味のある方・最寄りの方はぜひどうぞ。

さて、ご本人にブログに書く許可をいただく際「売名行為に使いません」などと書いておきながら、ちゃっかり下に Amazon のアフィリエイトを貼ってみたり。でもオススメ!

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気づいたら8月になっていた

飼い主に似て…ヴァイオリンの合宿やら発表会で目白押しの7月が終わっても、何だか仕事まで忙しくなってブログの更新どころではなかった。自分の備忘録なんだから何かしら書かないと、とは思っていたんだけれど…

そんな怠惰なブログなのに、ここを見て私に仕事を依頼された方もいらっしゃったり…その辺のお話はご本人の許可やらタイミングやらを確認してからそのうち書こうかなと。発表会の反省点とかも。