デフレの功罪

 最近粗食気味のせいもあって今日は急に旨いカレーが食いたくなった。行きつけにしていたカレー屋は閉店してしまったし、どこにしようかと悩んだ結果、川越の ボンディ (埼玉県川越市脇田町13-20)へ。

 ボンディは神保町に本店がある欧風カレー店。昔、古書街に毎週のように行っていた頃「たまにはゼータクするかぁ」と思ったときに行った店。自炊でカレーを作る時には目標にしていた味だったが、もう十何年と食っていないので記憶も薄れている。

 SRXで30分程度のプチ・ツーリング気分。丸広百貨店の裏の路地抜けた住宅街の中にあり、一方通行の道も小型車1台分の幅しかない。商店街のにぎわいからも外れているから地図がないとたどり着けない。

 店内は喫茶店風で昼飯時だというのに客が1人しかいない。普段ならチキンなのに今日はビーフカレー中辛(1,300円+大盛り150円)を注文。粗食のせいで肉が食いたいらしい。何せ値段が1300円からだし。コンビニの弁当すら高いと言って自前で弁当作る「弁当男子」が多発しているぐらいだから、せめてお得なランチメニューでも作らないとダメかもね。

 などと経営の心配をしながら待っていたらジャガイモの前菜が。そういえばこんなの付いてたわと思い出した。皮つきのまま丸ごと蒸したジャガイモ2個(小)にバターが添えられているだけなのだが旨い。しかしスプーンだと食いにくいな、って昔思ってたのも変わらない。

 ジャガイモを食べ終わる頃にカレーが。うわ、角切りの牛肉がゴロゴロ入っている。ご飯の上には細かくしたチーズが振りかけられており、こってり感が。そうそう、こんなだった、こんなだった。

 頭の上で♪を鳴らしながら一口カプリ。ンー、ンマイ♪ でもあれ? こんなだっけかな? 確かに旨いが記憶と違う気もする。食べ進めながら?と♪と汗を交互に出していくうち、残りの数口分で満腹感が…しまった、ジャガイモの存在を忘れていて大盛り分がツラくなってきた…。バターが入ったまろやかでコクのあるコッテリ系カレーだからなおさら。最後の方はもう意地で流し込む。ううう、ゲップ。食後にエスプレッソ(350円-100円割引き)を飲んで計1,700円也。

 いや、確かに旨いんだけど、1,700円の充実感はあったかというと正直ない。というより、昔は旨いカレー食うのにこの値段出さないと食べれなかったんだよね。しかし最近はデフレの影響で安くて旨いものがどこでも食えるようになってしまった。というか「安いけどマズイ」というカレーすら見かけなくなってきたし。平均点が軒並み上がってしまったんだろう。

 そんなご時世で昔ながらの手間暇かけて作ったカレーがお値段据え置き(ていうか昔より100円値上がりしてた)の状態なので、コストパフォーマンスが悪いと感じてしまうんだろうと思う。なんというか、勝手に頭の中で値段が2倍なら味も2倍という期待感ができてしまってたんだろう。コスト切り詰めて大量生産した製品と手作り品を比較するなんてナンセンスなのにね。うー、ゲップがさっきから止まらないが、やっぱきちんとスパイス調合して作られたカレーはゲップも違うね。

 などと岐路の間、ノドの奥から鼻腔に抜けていくナツメグの余韻を愉しみながら、SRXを飛ばして十数年ぶりの感触を取り戻すのであった。

弓はむずい

 今日、ホームセンターでシールを買ってきて、弓に目印をつけた。毛の1/2と1/3と1/4の所。

 ヴァイオリンの弓について見たこともない人もいると思うので簡単に説明。弓は火で炙って反らしてバネのようにした棹(さお:木の棒)に馬の毛が何十本も張ってある。これを手元の金具のネジを回してピンと張り、松脂(まつやに:ヴァイオリン用に調合した半透明の固形物)を擦りつけてある。ちなみにチェロやコントラバス、ヴィオラですら弓はそれぞれ違うものを使う。元々は矢を射るための弓と同じ構造だったらしいが、弾き易さを追求して今の形になったということだ。

 あと値段は材質とか年代とか製作者とかでランク付けされている。私の持っているものは高くても2万以下の安物ばかりだけれど、高いものになるとン百万の世界になる。もちろん値段が高ければ弾き易さが断然良くなるのだが、楽器との相性とかもあるらしいのでなかなかあなどれない。

 ついでに脱線するが、こないだ発表会の際にヴァイオリンの先生の所へ出入りしている楽器商の人にヴァイオリンの道具について面白い話を聞いた。

「やっぱり本体はイタリア、弓はフランス、弦はオーストリア、ケースはドイツですね」

 最近は中国製もあなどれない品質になっているので一概にそうとも言えないだろうけど、古くからヴァイオリンを扱っている人はこれが常識みたい。あと弓は楽器の半分の値段のを使うのがこれまた「常識」らしく、楽器が100万なら弓は50万とか。そういう人たちの言いなりで買ったら数百万になっちゃうよね。

 もう一つ聞いたのが、ヨーロッパの法律では35%以上を本国で加工したら「本国製」と名乗って良いらしい。つまり中国で60%以上加工して半製品で輸入し、あとの仕上げをイタリアでやればイタリア製のラベル貼って売れるみたい。なんか納得いかない気がしないでもないけど、最近はそういうお値打ち価格のイタリアンもあるそうで。というかその仕上げ次第で音色がイタリアにもフランスにもドイツにもなるらしい。以前アントニオさんも「同じ材料使ってもイタリア人が作ると何故かイタリアの音になる」みたいなことを言ってたのでそうなんだろう。多分。ちなみにイタリア100%手工品の新作楽器は最低でも80万ぐらい。私には縁のない話。

 …で、話を戻す。私は弓なんてただ横に振ってギコギコすればいいものだと思っていたのだが、最近になってその難しさがわかってきた。音色向上のために最近はひたすら音階と開放弦ばかり練習している。あと先生に習うまでは全く意識していなかったのだが、弓の使う量の配分も大事と習ってシールを貼られた。先生が貼ったのが剥がれてきたついでに、他の弓にも同様に貼ってみた。これでさらにスラーの4分音符をきっちりと等分して弾けるように練習中。何かまた一歩目標が遠ざかった気がする…

 本当は目印とかつけるのはカッコ悪いのでやりたくないんだけどね。音色のためなら仕方ない。でも指板にシールを貼られるのは拒否したけど。先生ごめんなさい。アレだけは私の美意識が許さないんです。

下手になった

 以前からヴァイオリンの先生に指摘されていたことなのだが、低い弦を押さえたまま高い弦に移弦できない。なぜなら指が太いので、隣の弦に触れてしまうから。

 今回の先生は音程を正確に取れるよう、移弦して開放弦を弾く際も指を残すようにと教えている。例えばG線でソ(0)・ラ(1)・シ(2)・ド(3)と指を置いたらそのままの形で隣のD線のレ(0)を弾き、逆に下降の際にはD線のソ(3)・ファ(2)・ミ(1)と弾いたらミ(1)は残したままG線のレ(4)を弾くように、と。

 下降の際は1本指を残すだけな上、影響のない弦に触れているので問題はない。しかし上昇の際には3本の指を残すのでそのどれかが弦に触れてしまう。弦にちょっとでも触れたらそれは違う音になるどころか、ヒョヒーと恐ろしい音が出る。ひいいっ。

 今までは指が太いこと、腕が曲がらないことを理由にして隣の高い弦に移るときは指を完全に離して弾いていた。しかし、このままでは重音(2弦以上を同時に弾いて和音を出す)奏法に制約が出てしまう。つまり弾けない曲が出てきてしまうのだ。

 なので本日から矯正を始めてみたのだが…指と弦の触れる位置が変わってしまって全く音程が取れない! ウワーッ! そして変な力が入って指が引きつるッ! ひぎいっ!

 それでも小一時間ガマンして練習したら何となくコツはつかめてきたのだが、音程やフォームが全く安定せず、以前より劇的に下手になってしまった。当分は試練の日が続くようだ。ああ、白魚のような細長い指が欲しい…