愛器の正体 その2

 次は装飾ヴァイオリンの話。ラベルには「BugsGear」の表記のみで制作年がわからない。2007年4月にヤフオクで入手したのだが、この2ヶ月前にもヤマハのサイレントヴァイオリン SV-120 を買っていたりする。2007年はストレスでも溜まってたのだろうか…

 買った動機は一目ぼれ。複雑な模様の木目に象眼細工、テールピースやペグにも施された彫刻。それで3万だったから思わずポチッてしまった。しかし、届いたら細かいところの造りが粗く、裏板の木目もよく見ると節穴を接いで塞いだ修繕痕が。何よりネックが根元で反って指板と弦が完全に密着していて演奏不能という代物。まあ価格相応といえばそうなのだが、相手が一応楽器商というのもあったので評価に「悪い」をつけた。「弦が密着したら音が鳴らないんだからそれは楽器ではないでしょう」と。相手は「これでも赤字なんです」みたいな弁解をしていたが、仮にも楽器商なら「楽器」を売るべきであって、音が鳴らないのなら「ジャンク」と表記しないと。壊れててもお買い得だったけれど、そんなこんなのちょっぴり苦い思い出。

 その後、久々アントニオさんに行って直してもらったのだが修理費は3万ぐらい。ネックの付け根で曲がっていた上に表板のハガレもあって大工事になったようだが、弦交換や魂柱、ペグの調整までしてもらってこの値段なんだから破格だ。音質に関してアントニオさんは「まあまあいいよ」と言っていたが、弦を弾きながら首を傾げていたのでイマイチだったのかも。というか楽器を買わずに安物楽器のメンテだけ依頼している私ってイヤな客。

 このヴァイオリンの原形となっているのはストラディバリの「Hellier(ヘリエ)」(Wikipedia 英語版)らしい。ただしストラドと違い杢が虎目ではなくウネウネ模様になっている。「バーズアイ」と出品時には書かれていたけど、これは厳密に言うと違うもの。バーズアイも同じく、カエデの根元でこうした木目がまれに発生するのだが、鳥の目のような丸い模様が均等に現れないとバーズアイとは呼べないらしい。でも赤めのニスも相まって炎がメラメラと燃えている感じなのでこれはこれでお気に入り。

 さて、前置きが長くなったがこの楽器の正体について。その楽器商は私のクレームのせいか知らないがこの後ヤフオクから撤退していて詳しいことが分からずじまい。落札当時BugsGearで検索して韓国のギターメーカーがヒットしたのだが、ヴァイオリンのラインナップがなかったし。日本ではストリングネットという会社が取り扱っていたのだが、現在 http://www.stringnet.co.jp/ にアクセスするとEleukeというエレキ・ウクレレのページに飛ばされてしまう(おや? 今日はそのサイトも消えた?)。どうやらBugsGearというブランドはなくなってしまったようだ。

 最近になって仕事中のヒマ潰しにネットで調べまくったところ、BugsGearのギターはインレイ(象眼細工)が美しく高品質、そして低価格と評判だったようだ。イメージ検索で引っかかったBugsGearのギターのラベルにあるロゴがこのヴァイオリンと同じなので同一メーカーだとは思われる。だが結局このヴァイオリンについての詳しい情報は見つけられなかった。

 あくまでも私の推測だが、このヴァイオリンはBugsGearの職人が腕試しに作った試作品なのかもしれない。しかし生産工程の複雑さとノウハウの不足により思ったように製品化できず、失敗作をオークションに横流ししたのだろう。ほぼ同じものが数本存在していることはその時のヤフオクで確認(1本は沖縄の人が落札)しているが、今となっては全く謎になってしまった。

 以前にも書いたが、今また指板が下がってきたので演奏が困難になり調整に出さないとならなくなった。だが以前よりも木が乾燥してきたし、最近練習でガンガン弾いたから音が鳴ってきたようだ。メンテにお金はかかるけれど、さらに10年20年とエイジングが進めば名器に化けそうな予感がする。これからが愉しみ。

愛器の正体 その1

 職場でヒマを持て余してWebを検索しまくったら愛器オウム号の正体がわかった。2004年に民営化された天津鹦鹉乐器有限公司(何かすごいBGMが鳴るので注意)が国営楽器工場だった1977年に量産されたものらしい。

 当時の中国は文化大革命真っ盛り。共産主義という「マジメに働こうがサボろうがギャラはおんなじ」という職人のモチベーションを下げる政策もあって、品質は二の次に大量に安く作られていたらしい(詳しくは古賀弦楽器さんの「中国提琴事情」へ)。現在はアコーディオン生産がメインでヴァイオリンは製作していないようだが、何故かトップページはヴァイオリンだしBGMはピアノだし。ロゴマークは一緒なんで間違いはないと思うが謎。

 このヴァイオリンは友人の引越しの際に出てきたもので、元々はさらにその友人(私の知らない人)が学生時代に所有していたものらしい。何でも学校で嫌がらせを受けて同級生に壊されたものと聞いている。もらったときは裏板が割れ、駒もなく、魂柱は中でコロコロ転がっている状態。

 16年前に修理を依頼したときにアントニオさんには「手作り感がいいねぇ。渦巻きとかゆがんでるしパーフリングも手描きだし(笑)」と言われつつも「いい楽器だよ」と言われた。普通は量産品だとプレス合板で型抜きしたり機械でガーッと削って作るようだが、当時の中国は機械よりも人間の手間賃の方が安かったらしいので、結果的にオールハンドメイド。それが結果的に音質では良い方向になったらしい。

 元々が量産品で仕上げが雑な上、年数を経てニスもひび割れまくり(恐らく量産家具に使う安物ニスであろう)。自分でもぶつけまくって傷だらけ。全体のフォルムも何かのっぺりして変。でも目を引くのは指板。通常は黒檀が使われるところにローズウッドっぽい甘栗色の木(天津製だけに)が使われている。これがなかなか手触りがよかったりする。音も低音から高音までキッチリ鳴る上、雑音がしない。持っているのが私じゃなければさぞかし気品溢れる音を出すであろう。

 最近になって再調整に出したらさらにいい楽器になったみたい。先生にチェックしてもらっても「いい楽器ね」と言われたぐらいだし。見た目もあまりよくないし価値もないヴァイオリンではあるけれど、手になじんだ愛器だけに今後もメイン器として使い続けていくことになるだろう。というかこの楽器の実力を引き出せるよう腕を上げないとね。


 ヤフオクで買ってしまった>新しい弓(写真一番下)。カーボングラファイト製の棹で5000円也。弓の毛替えの値段並みなのでついうっかり入札してしまった。

 値段が値段なので所々接着剤がハミ出ていたり棹に小傷がいっぱいあったり、フロッグの動きが硬かったりとそれなり。しかし吸い付くのとは違う妙なフィット感と鳴らしやすさ。先弓から元弓まで音量にバラつきなくフラットな特性。この季節、湿気の影響を受けない材質だけに期待大。

 なお、写真の一番上から、

  国産タカス製(15年もの、現在毛が半分以上抜け落ちて要修理)
  BugsGearについてたオマケ(横方向の反りが出てきて×)
  ヤフオクで買った中国製ペルナンブーコ(八角弓、そこそこ高級)
  今回買ったカーボン

 探すとまだ出てくるかも…

やーれんそーらん

 隣の保育園が夏祭りの準備でソーラン節(ロックバージョンみたいなやつ)の踊りの練習をしている。たまにタイコがドンドコ鳴ったり、子供がギャースカ言ったり、拡声器がガピーとか言ったりでなかなかやかましい。が、昔からそうなのでそんなに気にならない。曲の〆にみんなで「ヤーッ」と掛け声を入れたところでダチョウ倶楽部の映像が思い浮かんだ。

 今朝はそれに輪をかけてやかましく、消防車が何台も走り回っていた。もーやかましーなー眠いなーと思って寝直そうとしたら合成樹脂の焦げる臭いが漂ってきた。何だかなーと思ったら50m先の近所の家が煙を上げていた。さっきまで無線連絡のガーピーとかいう音とか警察の笛の音とか、その他もろもろの騒音ですっかり目が覚めてしまった。

 でも今すごく眠くなってきたのでお休みなさい。と、思ったら下手糞な笛とタイコの音とともに「ソーレソーレソーレソーレ」言い始めてきた…