短調が好き

毎年、ヴァイオリンの発表会には欠かさず出ているが、毎回選曲に迷う。簡単すぎると先生からダメ出しされ、難しすぎると自分の首を絞める。微妙なラインを探しつつ、それでいて自分が好きな曲をやりたい。

実力が伴っていないのに、近頃は音楽高校受験レベルの曲(中級の上から上級の下)を選曲しないと先生が納得しない。かといって発表会でしか聞いたことない曲や、モーツァルトやベートーヴェンのコンチェルトなどの定番は嫌だ。なるべくなら今まで発表会で誰も聞いたことがないのがいい(下手なのがバレない)。

ここ数年の選曲は、

2013年 ピアソラ リベルタンゴ
2014年 マスネ タイスの瞑想曲
2015年 バッハ パルティータ第3番 ガヴォット
2016年 ガーシュウィン サマータイム
2017年 バッハ G線上のアリア(sul G)

となっている。節操ない。どれも自分がやりたいと手を挙げた曲だが、どれも満足に弾き切れず、数小節吹っ飛ばす有様。思い出すと布団かぶって泣きたい。

だから今年はちゃんと弾きたいと思って簡単な曲を選ぼう! と思ったのだが、どうしても弾きたい曲を見つけてしまった。ショパンの夜想曲 第20番 嬰ハ短調。ミルシテイン編曲のヴァイオリン版だ。

この曲は元々ショパンの遺作でピアノ・ソロ。映画「戦場のピアニスト」のテーマにもなっている。それをウクライナ出身のヴァイオリニスト、ナタン・ミルシテインがアレンジしてピアノ伴奏のヴァイオリン曲に仕立てたもの。ショパンの物悲しい旋律をそのままに、ヴァイオリンのテクニックを散りばめた珠玉の逸品だ(←陳腐な表現)。YouTube で見つけて聞いた時には「これやーッ」と電気が走りましたよ。

やっぱり短調っていいよね。とくに上行の時に半音上がって(和声的短音階)、下行の時に半音下がる辺り(旋律的短音階)が好き。一気に登り切ったら、むせび泣くようにロングトーンでゆっくり下るのがいい。シャープしてナチュラルでキュンキュン。ナチュラル→シャープ→ダブルシャープとなかなか登っていかない半音階も萌え萌えポイント。

しかし楽譜を取り寄せてみたら案の定、苦手なスラーの音階が。そして3連符、7連符、11連符、13連符、18連符と、これマージャンのW役満なの? それに指慣らしで嬰ハ短調(#×4)の音階さらってみたけれど、なんかこれ嬰ト短調(#×5)じゃね? 指絡まりそうな重音もあるし、スラーの区切りもおかしくね? 32分音符マジか。それに一番高い音は第13ポジションって。

第7ポジションすらロクに音程取れないのに、キーキー言ってキレイに音出ないんスけど・・・。先生も初見なので指導が試行錯誤。ていうか先生「もう何ポジションだかわからないけど」って投げないでくださいよ。こないだのレッスンでは指番号について言った言わないで言い争いになったし。

さらに取り寄せた楽譜には誤植が(誤:左パート譜/正:右ピアノ譜)。

先生のピアノと音合わないと思ったらこれだよ。というか五線の上に加線が多すぎて、もう何の音だか読めない。ときどき8と点線(オクターブ線:点線のところを1オクターブ上で弾く)ついているし。

そんなわけで練習嫌いの私が珍しく、ここんところ欠かさず毎日湿布貼りながら練習している。マジヤバいんだってさ。やばたにえん。

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あご当て交換

最近ポジション移動するときにヴァイオリンが滑り落ちそうになる。最近さらに太り、アゴがたるんで二重どころじゃなくなったからだろう。相変わらず肩当なしで弾き続けているが、調子の悪い時はイマイチ不安定。家の練習用 BugsGear 号はそんなに滑り落ちそうにならないので、メインのパロット号に同じ形状のあご当てをつけてみることに。

パロット号は指板が茶色(おそらくクルミ材)。フィッティングはローズウッドの方が似合うと思い、楽天のショップ2件で比べていたら一方は在庫切れ。というか今年になってワシントン条約でローズウッドが国際取引の規制対象になったとか。すでに加工されたものについてはまだ売買の規制にはなっていないようだが、何となく罪悪感を感じながらローズウッド材のガルネリ型あご当てをポチリ。

届いてすぐ交換してみたが、以前交換したボックスウッド材のシャーク型 に比べて色が濃い目になって引き締まった印象に。構えてみるとあごの引っかかりが良くなって内側の方向に回転しにくくなった、ような気がする。劇的な変化とは言えないが、違和感がないからまあいいんじゃないだろうか。

しかしあご当てにガルネリ型とかストラド型とかあるが、1700年代にはあご当てはなかったんじゃないかしら。他にも色んな形状があるがお試しもできないのでイマイチどれがいいのかわからない。というかヴァイオリンの不調を道具のせいにするより、練習不足に目を背けないことの方が先決じゃないかしらん。

発表会まであと2週間。ヴァイオリンが滑るとか滑らないとか言ってる場合じゃないなぁ・・・

弦交換

先週、ヴァイオリン教室の練習合宿があったのだが、その前あたりからパロット号を弾くとガサガサと嫌な音が鳴っていた。どうやら周囲には聞こえないらしいのだが、耳元ではザザーというホワイトノイズのような音が混じって鳴る。すごく心地悪い。

恐らく1年ぐらい弦交換していない(→やっぱり昨年夏だった)。合宿前に交換しようと思ったら弦の買い置きを忘れていた。合宿から帰って I Love Strings でポチり、先ほどようやく交換。調弦している間のピチカートですら響きが違う。あースッキリした。

毎回(と言っても1年に1回)弦を買うときに、新しい弦を試してみたくなるのだが、結局パロット号には今回もオイドクサ。ちょっと値上がりしたけれど、7千円で買えるガット弦はこれしかないから。別にガットでなくてもいいんだけれど、雑音も含めてまろみのある暖かい音色が好きなので。合成弦のスカッと切れ味のある音色も嫌いじゃないが、とうとう40歳になったパロット号にはオイドクサGDA弦+ゴールドブラカット0.25E線がベストな気がする。

しかし古くなったガット弦は楽器の中にカナブンでも棲んでいるかのような音になるのね・・・というかブログだけでなく、楽器のメンテも怠ってしょうがないなぁ・・・

苦手なG線 その2

ヴァイオリンの先生は私のレッスンの前後1時間以上、他の生徒のレッスンを入れない。いつもレッスンの倍以上の時間、雑談をしてしまう。内容は楽器や曲、音楽家にまつわる雑学や、映画、インターネット、精神医学、自然科学、恋愛沙汰、ペット事情と多岐にわたる。そうやって色々と話していると人生論になってくる。波乱万丈というわけではないが、お互い人生を不器用に生きてきたタイプ。そのためか生き方考え方が似ていて共感を得ることが多い。

ある日の先生の話も興味深かった。「逃げると後で追いかけてきて、また前にはだかってくる」という話。若い頃の先生は人間関係が嫌いで、面倒が起こるとすぐ逃げていたそうだ。交友関係を広げたり、人に指示したり、そういうのが嫌だからヴァイオリンの道に進んだらしい。だが人生の節目節目で、そうして避けてきた事が前に立ちはだかってきたそうだ。その度に逃げていたそうだが、次に来たときは前よりも手強くなってきたとの事。そのうち生活のためどうにも避けることができなくなって、ようやく覚悟を決めて立ち向かったそうだ。もちろんかなりの苦労をしたようだが、今となってはそれが人生を好転させたきっかけになったと話していた。

私も苦手なもの、面倒な事は嫌だ。避けてきたもの、わかっていても見えないフリをした事がいっぱいある。その1に書いたG線もその一つ。

G線と聞くとクラシック好きな人ならすぐ思いつくのは「G線上のアリア」だろう。バッハの管弦楽組曲第3番の中のアリアを、19世紀ドイツのヴァイオリニスト、ウィルヘルミがヴァイオリンとピアノ用に編曲したもの。今では原曲のオーケストラ演奏まで「G線の~」と呼ばれてしまっているが、本来は別物だ。

このヴァイオリン曲の特徴は、原曲のニ長調を1オクターブ以上低くしてハ長調に転調し、G線だけで弾くようにしてあるところ。最低音がGの解放弦のソ、最高音が1オクターブちょっと上のシ♭までを1本の弦だけで弾く。一番高い音でも第7ポジションの3の指(薬指)だし、テンポもゆったりなので、中級以上ならば実はそんなに難しくはない。

ところが、これをキレイな音で聞かせようとするととんでもない。前回書いたようにG線がまるで響いてくれないのだ。ロングトーンでボウイング(右腕の動き)のムラがモロに出る。左腕はヴァイオリンに回り込ませるようにぐっと曲げないとならないから、腕肩がつるしヴィブラートも安定しない。ポジション移動が多いから音程も合わない。今の私だと老婆が絞め殺されているような、不快な音にしかならない。まさに私が抱えている欠点をすべて白日の下に晒すような嫌な曲なのだ。

そんな曲を今年の発表会に選んでしまった。我ながらマゾい。しかし一昨年の発表会で弾いたバッハのおかげで、重音(二弦以上を同時に弾く)の苦手意識を克服したし(上手くなったわけではない)、私が今、越えるべき山なのだと思う。というか今逃げたら、冒頭の先生の話のように後になってさらに大きくなって立ちはだかってくるだろう。悪いフォームは年を取ってから直すのが容易ではないし、演奏に致命的な故障を起こす要因にもなる(と、メニューインの本にも書いてあった)。

だが季節の変わり目で体の節々が痛い。慣れない姿勢を強いるG線のハイポジションがキツく、長年の悪い癖を直すのに四苦八苦。ひたすら基礎からやり直している状態で、今はまだ曲をさらう以前の問題。もう、くじけそう・・・