久々全力作業

拙ブログで以前ナポレオンのコラージュを公開したのだが、それを見て「ぜひ」とお仕事をご依頼された。チェリストの林裕さん。なんか調べてみたらすごい人だった。ひえー。

たまに会社の同僚やら知り合いからチラシやデザインの仕事を頼まれる事があるのだが、基本個人的なものはお請けしていない。昔、デザイン会社で過労が祟って体を壊したのもあるし、それに知り合いは「チャチャッとやってくれればいいから」などと格安に作らせようとする魂胆が見え見えだし(そう言いながら注文がうるさかったりする)。

でも今回まったくの初対面だった(というか今でも全部メール連絡で電話もしていない)が、何か珍しく心に火が着いたので、7~8月は合宿やら発表会、会社の行事などでスケジュールがキツかったのだがお請けした。

8月に入ってから1週間ぐらいで集中して仕上げたのだが、会社から帰宅したあとの深夜作業が続いたのでヘロヘロ。こちらも写真素材に文句をつけて撮り直させたが、先方もこだわりがすごくて何度もリテイクさせられたり。最近デザインの手を抜くことを覚えてしまった私にはいい刺激になった。何よりこういうギャグを手を抜かずにやるのは楽しい。今週はずっと寝不足だったけれど(会社で意識失いそうになった)。

さて、そんな私のどうでもいい苦労話(?)なんかよりも林さんのCDを買って聴いてみたのでちょっと感想を。以前勤めていたデザイン会社にあったデザイン入門書に「広告を作るには商品を好きになれ」と書いてあったし。

最近発売されたばかりの「SERGEY SQUARED」はピアノとの二重奏。二人の「セルゲイ」の名を持つ作曲家ラフマニノフとプロコイエフのソナタを主に取り上げたもの。

林裕さんのCD

私はそんなにクラシックには詳しくないので、作曲者名は知っていても全部初めて聴いた。林さん自身が埋もれそうなチェロの名曲を発掘する活動をされているので、そんなに有名な曲ではないのだろう(私の不勉強なだけなのかもしれないが)。作業のBGMに聴きながらと思い再生してみたのだが、とてもじゃないがBGMになど使えない。重厚で聴き入ってしまうのだ。

ラフマニノフはピアニストとしても活動していて、とても手が大きく離れた鍵盤を難なく同時に叩けたらしく、ピアニスト泣かせの曲を書いたと聞いた事がある。なるほど、鍵盤や指板を端から端まで使っているような、低音域をゴリゴリしながらも高音域で美しく物悲しい旋律。チェロが入るとさらにそこに厚みが増し、時に音圧に押し潰されそうになり、時に静かな森のような清涼感を漂わせる。ピチカート奏法(指で弦を弾く)を多用しつつ表情に変化を加えてピアノと絡み合う。

プロコイエフのチェロソナタはロシアの大陸を思わせるような威風堂々なアンダンテから始まり、時にギターのような叩きつけるようなピチカートで驚かせるかと思えば、次のモデラートではエリック・サティのような不思議な旋律がピアノと絡み合う。音が軽やかに上下していくのを聴いていると、腹にズンと響くような低音から、ヴァイオリンのような澄んだ高音まで出せてチェロってつくづくズルいと思う。

最後の曲はアルツシューラーの曲でとても珍しい曲だそう。とはいえロマン派を思わせるような美しい曲。終わりの方で人工フラジオレット(低音側を指で押さえ、他の指は弦に軽く触れて倍音を響かせる高度なテクニック)は山の彼方から聞こえてくる口笛のような音色が素晴らしい。

そしてもう1枚「林裕 独奏チェロ・コレクション SOLOist」はチェロ独奏という意欲作。通常合奏に使われる楽器で伴奏もなしに演るのはキワモノ的なものが多いが、私はこっちの方が好き。いきなりヴァイオリンの超絶技巧曲で有名なパガニーニから。正直言うと「何ですかこの人は」。チェロでここまで弾けたらヴァイオリン要らないじゃん。せせらぎのような美しいメロディからリズミカルな弓さばき。厚みのある重音。オノマトペで表現すると「ガリッ」「ボンボボン」「ボヒュゥイン」「ガキン」「ギュイギュイ」「ヒュイ~ン」って感じに色んな音が出せる。それでいながらちゃんと調和してキワモノ臭がしないのは確かなテクニックがあるからこそ。ズルいズルいっ!

恐らく世界的にも録音している人がほとんどいない、チェリスト作曲による珍曲が収められているので、クラシックファン/チェロ奏者は必携じゃないかしらん(と、陳腐な表現)。うんスゴいよ、この林って人。ボウイングもピチカートもとんでもなく上手い人じゃん。二弦同時に弾いても各々音量とビブラートをコントロールしているし。というかこんな私が仕事請けちゃってよかったのかしらん・・・などと思いながら作業の手が止まってBGMには出来なかった。おかげでさらに寝不足。はふうん。

・・・などとご本人が読んでいらっしゃるかもしれないのに、こんなの書き散らしていいのかしらん。兎にも角にもこうした素晴らしい機会を与えてくださった、林裕さんに感謝します。右にお仕事させてもらったリサイタルのバナー貼っておきましたので、興味のある方・最寄りの方はぜひどうぞ。

さて、ご本人にブログに書く許可をいただく際「売名行為に使いません」などと書いておきながら、ちゃっかり下に Amazon のアフィリエイトを貼ってみたり。でもオススメ!

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