もう動かなくなってから十数年経過したシトロエン2CVを先日処分した。

つい数年前はモノに対する執着心が強かったため、処分しようなどと考えもしなかった。今回は家族の圧力もあって手放すことになったのだが、この歳になってきたら色々枯れてきてモノを捨てるのに躊躇しなくなってきたようだ。

だからと言って様々な思い出のあるクルマをポイとは捨てられない。いつかは直して元気に走らせたいと思っていた。だが万年貧乏症候群に罹患してしまった私にはもう無理だ。とはいえスクラップにするのだけは避けたい。なのでいつかはお世話になろうと思っていたモンテカルロさんに初めて連絡を取って相談に乗ってもらった。

現状写真を撮ってサイトにアップしてメールを送るとすぐに返答を頂いた。残念ながら現在スペースの関係で引き取りは難しいとのこと。でも親身にあちこちへ連絡を取っていただき、最終的にシトロエンマニアの方をご紹介いただいた。
  
親にゴミ入れにされてしまっていたので全部片付け、引取りの当日ホコリを払って少しでもキレイにしておこうと雑巾がけをした。予定の時間より早めにキャリアカーが到着。挨拶もそこそこに撤収作業開始。

すでにタイヤも潰れてレッカー移動すらままならない状態だったため、タイヤも持参していただいて交換。妹のダンナさんにも手伝ってもらい、何とかキャリアカーに積み込むことができた。ボロ屋根の車庫で雨が多少しのげた分、思ったよりは腐ってはいなかったようだ。貰い手の方に一時抹消登録の書類を預け「部品取りにでも好きにしてください」と言ったら「シャーシは意外にしっかりしているから生かしましょう」と答えてくれた。
  
このシトロエンは元々友人が中古で購入した車。フィアットパンダを買うつもりで当日いきなりこれを選んでしまったらしい。このカラーリングは彼が自家塗装でしたもので、パリ・ダカールラリーで走った2CVを模したもの。でも直す端から錆びていくのに嫌気がさし、買い替えを機に別の友人に譲られることとなる。

今度のオーナーは人一倍運転の荒い奴だったが、走行性能の部分での耐久性は優れていたので大きなトラブルもなく数年は乗っていた。だが引越しの関係で手放すためスクラップするというので「捨てられるんなら貰っとこう」そういう軽い気持ちで私が譲り受けることになった。

私の代になってくるといよいよ色々な所がヤレてきた。雨漏りはするし駆動系のゴムはヘタるし床に穴は開くしシートのスプリングが飛び出て痛いしランプは切れるし西武自動車に車検を出したらボッタくられるし。

それでもちょこまか直しながら通勤や旅行に大活躍。前オーナー2人が越えられなかった草津の峠を、私は運転しながら標高に合わせてチョークで混合気調整を行って登り切った。真夏に屋根を全開にして走っていたら池袋で熱射病になって木陰で休んだのも、今となってはいい思い出だ。

602ccの空冷水平対向2気筒OHVエンジンは非力。高速の合流はアクセルべた踏みで命がけ。もちろんクーラーなどなく、大雨が降ればワイパーが追いつかず曇った窓を拭きながら勘で走る。クッションはいいがサスペンションのストロークが大きいため交差点を曲がるだけでも激しくローリング。バイクのような細いタイヤ、半分しか開かない窓、ブリキのおもちゃのように頼りないボンネットやドア。欠点だらけの車だった。

だが街中を走ればみな笑顔になった。街行く人は指をさし、止まれば笑顔で声をかけてくる。ファニーでハッピーなクルマだった。トラブルが起きても一緒に乗った仲間と大笑いした。運転にはスポーツ走行並みの技術が必要なので、マシンを操っているという征服欲も満たされた。多少のトラブルも一人で乗り切れる知識と度胸もついた。

だが8万キロを過ぎた辺りでクラッチが限界に。ダイナモも壊れて充電しなくなり、バッテリーが完全に上がる前に何とか車庫にたどり着き、そのまま数年が経過。車検が切れ、運輸省から廃車の督促状が来てナンバーも返納。次第に熱も冷めて庭のオブジェと化していた。

しかしそのオブジェももうここにはない。いや、悲しむことはない。私の手元で腐らせる方がこのクルマにとって不幸だったのだ。新しい持ち主のところで元気な姿になることを祈ろう。Adieu, Deux Chevaux! (さよなら、二馬力)

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投稿者 mezzo forte

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