橋の下のヴァイオリン弾き

 その昔、私がヴァイオリンを手に入れた25歳ぐらいの頃は川口に住んでいた。音の出し方すらわからない状態で自分でも聞くに堪えない音だったから、なるべく人目につかないようにしたかった。荒川がバイクで10分も走らないところにあったので、よく車道の橋の下へ練習しに行った。その後一人じゃどうにもならないことに気づいてレッスンに行くようになったけれど、晴れた日の休日によく通ったものだ。

 それから十数年、最近になってまたヴァイオリンを持って橋の下に行くようになった。バイクで10分も走らずに行ける、やはり荒川の川原。隣の市へと跨ぐ県道の下で今日もレッスン帰りに練習してきた。

 近頃の自分の課題は「音色の向上」。どこかのサイトに「ff(フォルテシモ)が出せなければpp(ピアニシモ)も出せない」とあり、「裏板が鳴るような感覚」をつかむために音量を出す訓練をしている。だが家でこれをやろうと思うと、近所のこともあるので遠慮がちになってしまう。また指の押さえ方を変えたので指の感覚をリセットせざるを得なくなり、ピッチが安定しないので自分でも聞くに堪えない音になってしまった。

 なので全力フルパワーで弾くのには、誰もいない橋の下がちょうどいい。見通しもいいせいか、日陰はけっこう涼しい。風が強めで譜面は広げられないが、どうせ誰に聞かせるわけでもないし、ひたすら音階と開放弦ばかり全力練習。

 思い切りバカでかい音を鳴らすのが目的なので、音が裏返ったり、ガキッとかすごいノイズが出たり、弓をぶつけたりでこれまた聞くに堪えない。それでも小1時間も経つと腕の動きに正確さが出るのか自分でも「おお」と思う音色が出てくる。

 またこういうメチャクチャな弾き方をすると、家に戻って普通の音量で弾いた時に楽器が倍音豊かに響くようになる。楽器にもいい影響を与えている気がする(ぶつけるのは逆効果だが)。普段回さないと回らないエンジンになってしまうバイクと一緒なのだろう。その分、弓の毛と弦はすり減るだろうが、消耗品をケチってたらレースじゃ勝てない(誰に勝つんだよ)。

 しかし、同じ荒川で結果的に昔と変わらない事をしている私は本当に進歩ないな。

「橋の下のヴァイオリン弾き」への2件のフィードバック

  1. ほほう、こんなマンガがありましたか。
    こないだ場所を変えようと思ったらカラスの住人はいましたが。

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