SRXが手元から離れ2週間以上が経った。昔はモノに対する執着がすごかったのだが、年を取ると心が枯れたのか未だ寂しさを感じていない。
私が最初に乗ったバイクはホンダのMBX50。叔父さんから5万で譲ってもらった2ストローク5速ミッションの原付だ。その当時はバイクが規制真っ盛りでどんどん牙を抜かれていったのだが、乗っていたのは規制前のモデルなので原付なのにやたらに速かった。調子に乗って飛ばし、初めて白バイに追っかけられて捕まったバイクでもある。車体は大柄で安定感があり、ビーンと高回転までストレスなく回るが下はスカスカ。白煙を吐き、マフラー周りはオイルとカーボンまみれ。常に高回転で回せば絶好調だが、1週間乗らないとエンジンがかからなくなるという良くも悪くも2ストらしいバイクだった。
バイクの面白さにハマるとやはり大きいのが乗りたくなった。教習所に通って中型免許を取得。MBXを下取りに出してヤマハのSR250に乗り替えた。SRというとヨーロピアンスタイルのシングルを思い浮かべるだろうが、125と250はアップハンドルにティアドロップタンクのエセ・アメリカン仕様。
ロングストロークの単気筒エンジンなので低回転で力はあるが高回転域が頭打ち。アップハンドルでキャスター角がキツいから旋回性が悪い。さらに前後ともリーディング・トレーリングのドラムブレーキなのでシフトダウンしてエンブレかけながら死ぬ気で握力をかけないとまるで減速しない。まさに「走らない・曲がらない・止まらない」バイクだった。だがシングルのパンチ力で同クラスならば信号グランプリは無敵。クラッチとアクセルワークで性能を限界まで引き出し、街中を走るヘボライダーのレーサーレプリカを見かけるとタイトなコーナーで追い詰め、アメリカンなのにハングオンして内側からブチ抜いた。トラブルも多かったけれど普通に乗っているだけで面白いバイクだった。
一時期はSRと同時にホンダCBR250R Hurricane(MC17)とモンキーZ50Jの計3台を所有していたこともあった。CBR250Rは今は亡き友人から生前に譲り受けたものだったが、距離数が5万キロを超えていたのであちこちボロボロ。それでもエンジンはカムギアトレーンでキーンと回り、最高速を試そうとしたら異次元の風景にビビッてスロットルを緩めたぐらい速すぎた。日帰り500キロのツーリングに行ったり、また白バイに捕まったりもしたが結局乗りこなせないままエンジンが不調になり、不動車となってしまった。
モンキーは他人の家の庭先で朽ち果てそうになっていたのを聖○新聞6ヶ月分で譲り受けて自分でレストア。手持ちの工具でバラせるところは全部バラして再塗装し、ほぼ新品同様にして乗り回していた。友人には「サーカスの熊みたい」と揶揄され、遠心クラッチの操作を間違えては直立し、サンシャイン60前で前輪を持ち上げたままハンドル持って足で走って恥をかいたことも。エンジンはバルブのスラッジを落として完調だったのだが、どノーマルのため最高速40キロという遅さ。街乗りとしても堪えられず結局当時習っていたヴァイオリンの先生にドミナント弦2セットで譲ってしまった。
そして手元に残ったのはSRだけになった。何年経ったか覚えていないぐらい乗り回し、転び、壊し、そして直した。恐らく40万近くは部品交換や修理代にかけただろう。しかし実家に戻って置いていたら盗まれてしまい、数日後に見つかって無残な姿に変えられていた。もうパーツ供給も限界だったし、直す気力もなくなってそのまま手放すことに。
数年は経済的な理由でクルマやバイクから遠ざかっていた。でも収入が安定し始めたらフツフツと自分の中のモーターサイクル熱が甦ってきた。ヤフオクで格安の250を探していて見つけたのがホンダVT250FE(MC08・II型)。入札したら即決で落札してしまった。
出品者がトラックで届けてきてくれたバイクはセル一発で始動はしたが、それなりに手をかける必要があった。カウル類はなくなっており、あちこち欠品や磨耗があった。でも低回転でも力強く、高回転だと電気モーターのようにストレスなく回るVツインエンジンは素晴らしく、少しずつ手を入れて乗りまくった。バッテリーは2回、タイヤは前後合わせて4本交換し、私の手元に来てから通勤快速で5万キロは走った。
だが盗難未遂に遭って鍵を壊され、バイク屋に部品を取り寄せようとしたらほとんどのパーツが「ゴソウダンパーツ」になって維持が難しくなった現実を知る。好きなバイクだったが駆動系のトラブルを抱え始めてきて本格的なオーバーホールが必要になった。さすがに欠品だらけのバイクを直せるほどの余裕はないので、またヤフオクで探してヤマハSRX400に乗り換えることに。
久々にヤマハで単気筒、それに初めての400cc。だが期待していたものと違いVTより非力だったのにちょっとガッカリ。長距離ツーリングを安心して走れるようにと思って買ったのに振動が多くて秩父に行っただけで疲れた。街乗りでもミッション比が中途半端なのでシフト選択が難しく、うっかり低回転で走るとエンジンがかぶるし、高回転だとピーキーなのでスロットルワークに神経を使う。それにSRXもVTとさして変わらない古さ。やはり維持は難しかった。
結局前に挙げた歴代のバイクたちに比べるとSRXは思い入れが少なかった気がする。スタイルは好きだしクセのあるバイクを乗りこなす充実感はあったのだが、年を取った自分には合わない気がした。20年前だったらもっと違う印象だったのかもしれないし、バイクが本調子じゃなかったのかもしれない。でも手放したバイクを寂しく思わなくなってしまった自分がなんか悲しい。