私は昔から新聞・雑誌の類は買わないので致し方ないが、何でこんな面白い本を誰も私に教えてくれないんだと思わざるを得ない。姪にせがまれて本屋に行ったら以下のマンガを発見。名前を聞くと懐かしいと思う二人だが、全然現役バリバリじゃないかっ。でも調べたらCOMICリュウは休刊中だそうで・・・
まずはSF界じゃ知る人ぞ知る、ふくやまけいこ改め福山けいこの「メルモちゃん(1)」。手塚治の「ふしぎなメルモ」のリメイクなのだが、これは単なる焼き直しではない。きちんと消化して大胆なアレンジが施してある。私は手塚治虫にそんなに詳しくはないのだが、新旧おなじみのキャラが沢山出てきて、私の世代以上は感無量。
ピノコ(ブラックジャック)やトビオ(鉄腕アトム)、ロック、ヒゲオヤジ、アセチレンランプ(ローソク頭の悪役)と手塚ファンならおなじみのキャラが何気なく顔を出す。ブラックジャックに至っては福山の思い入れが大きいのか全段ブチ抜きで登場。本人も楽しんで描いているのだろう。ヤケッパチ(やけっぱちのマリア)はなぜかフィギュアの原型を作っているし、百鬼丸(どろろ)は厨二病のラノベ作家。オタク文化や世相ネタが散りばめられ、ストーリーは全く新しい。
親を失ったメルモの引取先の女子高校生ケートは今どきのギャル。したたかで町内じゃ「悪魔の娘」などと言われているらしいが憎めない子。手塚原作ではメルモを引き取ったおばさんがいわゆる昭和の「いじわるな継母」だったが、福山キャラは善人ばかりで暗さが全くない。
IPS細胞やストーカーネタなど世相をひねりつつ、だがあくまでも幼女メルモの等身大の視点にこだわっているようでキャンディの由来説明など一切なし。SF考証など細かいところは置き去りにしたスピード感のあるストーリー展開にまるで古さは感じさせない。むしろファンが勢いで作った同人誌のノリに近いものがある。だがそこはベテランの仕事。伏線も消化してただのバタバタ劇にはしていない。ただ、少ないページに情報が凝縮されているためか手塚を知らない小5の姪にはわかりにくいらしく、読者の対象年齢は高めかもしれない。
初版特典の「らくがきノート」は設定資料的なものもあるが、まるで学生時代のらくがき用ノートそのままの装丁。流麗な鉛筆の線画から福山のインスピレーションが溢れ出ているようですごい。「ひみつ」と書いてあったので中身は見せないが、もう50にもなろうという人が全く衰えていないのを見て、ぜひとも私と同年代の絵描きは勇気をもらって欲しいと思う。
次は星里もちる「ちゃんと描いてますからっ!(1)」。昔「りびんぐゲーム」を見て女性作家だとてっきり思っていたのだが、最近オッサンだったと知って軽くショック。というか調べたら奇しくも福山けいこと同じ1961年生まれ。私も196x年生まれだからオッサンだが・・・
ストーリーは漫画家の娘姉妹が〆切り前に逃げる父の代わりにマンガを仕上げて生活を支えるという平成苦労物語。しかし昭和の暗さはなくタッチは軽い。学園生活の両立、部活の先輩との恋バナなども絡めつつ、ピンチを迎えつつもギリギリのところで乗り切るストーリーはある意味ハラハラ。こちらは姪にも評判よかった。
また最近のデジタル入稿などにも触れている辺りも興味深い。マンガの現場も昔とは様変わりしつつも、〆切りの怖さがリアルにひしひしと伝わるところは漫画家ならではの視点。父が昔ヒットを出したけれど微妙に有名じゃない漫画家という件は自虐ネタか? アナログしかできない父と姉、器用にこなすデジタル世代の妹の対比もまた面白い。
特異な環境にありながら各々のキャラの心情がきちんと描写されていて感情移入しやすい。言動と行動が一致しない思春期の女子中学生。意外に冷めてる女子小学生。母代わりに家庭もサポートするアシスタント。そしてダメな男性陣。今どきのストーリーマンガには珍しくデフォルメの強い絵だけれども、人間味あふれたリアリティのある描写にページから目が離せない。苦労人中学生・歩未の明日はどっちだ?
新しい作家が出ては消えていく群雄割拠のマンガ業界。正直言うとこの2人は名前こそ知ってはいたがちゃんと作品を読んだことはなかった。だが出版不況の時代、大量に産み出されては消費されていく中で古い世代がこうした良作を創り出しているのをみると励みになる。発掘と書くとおこがましいが埋もれそうになる良作を紹介して応援しつつ、オッサンになって久しい私もがんばろうと思う。