コロナ禍でツーリングは行けないわ、猛暑はひどかったわ、マスクで耳は痛いわ、会社の仕事は増えるわでストレスマックス~怒りのデス・ロード。
長いストレスのあとには大体私はあんなことやこんなこと、そんなこと、さらにこういうこと、そういうこともしていた。そう、またまたまたまたまた、またやってしもうた。
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ラッパ? と思ったあなた、違います。先日ついうっかりストローバイオリンをメルカリで買ってしまった。送料込みで52,000円也。
ストローバイオリンって何ぞや? と思う人もいるので、主に英語版 Wikipedia からナナメ読み解説。
19世紀後半にエジソンがレコードの原型となる円筒式の蓄音機を発明。それが円盤状のレコード盤に進化して量産できるようになっても、20世紀初頭までまだまだ蓄音機はゼンマイで動き、電気を使っていなかった。
もちろんマイクも磁気テープもなかったので、メガホン型の集音器で音を拾って薄い金属板を振動させて、その先に付けた針でレコードの原盤に溝を彫って録音していた。
しかし大音量のオーケストラなら問題なくても、ソロや室内楽だと若干音量が足りなかったようだ。電気式じゃないからボリューム調整もできないし、もちろんミキシングやオーバーダブ(多重録音)なんてできるわけがない。
そこで楽器の音自体を大きくしようと考えたイギリスの電気技師ストロー氏が19世紀終わり頃に発明したのが、このストロー(シュトロー)バイオリン(stroh violin, storoviol)だった。ラッパの口から音が直線的に飛ぶので、機械式録音に最適だったようだ。最盛期にはビオラやチェロも作られていたらしい。
だが20世紀に入ると音を増幅できる真空管と、安定した電力の供給が進み、録音機器もマイクロフォンやアンプを使う電気式になった。そうなると楽器の音量を上げる必要がなくなり、1920年代後半になるとストローバイオリンは急速に需要がなくなってしまう。クッソ重くて弾きにくかったせいもあって、あっという間に廃れてしまった。
とはいえ木製バイオリンとは違う、蓄音機で再生しているようなノスタルジックな音色はDTM用の音源があるぐらい、現代でも人気があるようだ。
それにミャンマーでは未だ生産されているらしい。インドでは大航海時代にヨーロッパから入ったバイオリンがなぜか民族音楽楽器になっているので、同様にイギリス統治の旧ビルマ時代に入ってきたものが独自に普及したのかも知れない。ルーマニアなど一部の国では horn violin とか phonofiddle という名前の似たような楽器が未だ現役で活躍しているようだ。
とはいえ実物を手に入れて弾いてみようなんて思う物好きな奴はそういない。流通している台数自体少なそうで、そんな楽器があることも知らない人が大半だろう。
ようやくここからが本題。そんな珍楽器、私が欲しがらないわけないだろが! ネットで手頃な値段で出ていたら、買わないわけないだろがっ! てなわけで初メルカリでポチッとして、程なく厳重な梱包で届いた。やったー!
ミャンマー製なので作りの粗さは予想通り。ボディはラワン材のような木目もない東南アジア系の木で、ニスすら塗られていない。スクロール(頭の渦巻)も歪んで左右非対称、変なツヤ消しブラックに塗られているし。ペグはなぜかギター用なのに大して微調整が利かない。駒の辺りは穴を開け直し、埋めてないのもご愛嬌。これは出品者の写真で見てわかっていたことだし、いいのいいの、音さえ出せれば。
さて早速構えてみると、噂に違わず「うわクッソ重ッ」。通常のバイオリンの重量が500g前後に対し、こちらは1.4kg。およそ3倍とかアリエンティな重量感だ。
これはまだアルミ製のラッパだからいいが、当時モノはトランペットなどと同じ真鍮製だからさらにクソ重かったらしい。よくこんなん弾いてたなぁ、昔の人は。まあ当時のSPレコード(78回転)は片面4〜5分しか再生できないので、それぐらいならガマンできたのかも知れないが。
で、数分いじって重さに慣れたときに気がついた。アレ? これ音程狂ってね? よく見たらなんかナットの位置おかしくね? 第1ポジションを普通に押さえると半音上がってしまうんだけど?
他のバイオリンと比較してみると、余裕でナット(糸巻き側の弦を支える木片)の位置が1cm以上ズレている。これはイカン。5万払ってゴミ買うとかアリエンティ。やっちまったかー!
自分で直すことも考えたが、やはりここはプロに任せたい。悩んだ末、毎回変な楽器を持ち込んでも面白がって直してくれるアントニオさんに、こないだメインとサブの楽器の調整に出す「ついでに」という体で見てもらった(前回参照)。「ついで」じゃなくてこっちを直すのがメインだとバレバレだったが。
こちらの心配をよそに「これ、ラッパの部分だけ欲しい」とノリノリで受け付けてもらい、翌日には仕上げて頂いた。さすがプロの仕事。相変わらずクソ重いのは仕方ないが、ずっと音が出しやすくなった。楽器として最小限機能するよう調整して頂いたので予想よりぐっと安価に収まった。やったねカトちゃん。
楽器として機能するようになって弾いてみると、意外に音が小さい。否。音の指向性が強すぎて、自分の方に聞こえないだけだった。横に小さなラッパがくっついているのはモニター用で、奏者が自分の音を確かめられるように付けてあるらしい。
実際試しに人に弾いてもらい、大きいラッパ側に立って聴くと「うっわ」って感じ。バイオリンの先生に見せて聴かせたら、やっぱり感想は「うっわ」だった。爆音までは行かず5割増しぐらいの音量だが、ピチカートでもビリビリ響く。というか金属的なシャリシャリ音が混じって叙情も何もありゃしない。確かにバイオリンなんだけど、やっぱり別物。味といえば聞こえはいいが、やはりチープで下品な音色だ。
とはいえバッハの無伴奏とか弾くと微妙にしっとりと合ったりして、イマイチどんな音楽に合うのかつかみどころがない。今の所用途がまったく思いつかない。ていうか私はまたこんなものを買って、ドコに向かっているんだろうか…
それはそうと、アントニオさんに数年ぶりに行った「ついで」の用事はもう一つあった。それについてはまた次回(引っ張るなぁ)。