以前アントニオさんに友人のベースを持って行った時「大きいだけで作りはヴァイオリンと変わらないですよ。違うのはいじる体力(笑)」と言われたことがあった。だがそれはあくまでもプロの言葉。体力だけじゃなく細かいところがかなり違うので万年初心者はその辺で戸惑う。今回はその弓の違いについて気づいたことをだらだら。

以前にも書いたがヴァイオリンとヴィオラは弓が違う。楽器が大きくなると物理的に大きなエネルギーを加えないとならないから。チェロ用の弓はさらに太く、重くなっている。そのためヴァイオリンの持ち方をすると非常に疲れる。

実は高音と低音は同じ音量でもエネルギー量が違う。いいスピーカーを使っている人は知っていると思うが、高音用にはツイーターという小さなユニット、低音用にはウーファーという大きなユニットが使われている。低音ほど周波数の周期が長くなるのでスピーカーの口径を大きくして鳴らした方が効率がいいのもあるが、一番の理由は人間の耳は周波数によって聴こえ方が違うから。体感的に高い音と同等にするには、低音になればなるほどエネルギー量を増やして物理的に音量を増やさないとならない。

そのためオーディオ用のアンプは周波数が低くなるほど対数的に電気信号を増幅するよう設計してあり、人間の聴覚に合わせた補正がなされている。コンサートで低音を会場の隅々まで響かせようとしたら、大出力のアンプとウーファーを積み上げ、最前列の人の前髪が音圧で揺れるぐらいのエネルギー量が必要になる。逆に低音を響かせる必要がなければメガホンみたいなラッパ型スピーカーで十分遠くまで音が届く。サイレンが甲高い音なのは、遠くまで音を飛ばすのにエネルギーが少なく済むからだ。

以上を大雑把にいえば低音は強く、大きくしないと聴こえないということ。キレイな音を響かせるためには大きさを犠牲にできない。チューバやバスクラリネット、バスーンなどの低音楽器のサイズがデカいのはそのせいだ。もちろんサイズが大きくなれば、演奏時に加える仕事量もより大きくする必要がある。

チェロやコントラバスなどのような弦楽器の大きな箱を十分鳴らすためには、弦と弓が接する面積をヴァイオリンより多くし、弦をより大きく振動させないとならない。そのためチェロの弓は毛の量が多く棹も太くなっており、弾く際に大きな抵抗がかかるので非常に重い。試しに普段使っているヴァイオリン用の弓でチェロを弾いてみたら軽いけれど音が十分に鳴らせず、逆にチェロ用の弓でヴァイオリンを弾いてみたら重過ぎて速く動かせなかった。やはりそれぞれ専用品を使わないと楽器か弓に余計な負荷がかかってよろしくないようだ。

また弓だけでなく、その毛に塗る松脂も選ぶ。私はいい松脂を使ったことがないのではっきり言って違いのわからない男だが、今回チェロをいじったときにはさすがに違うと感じた。諏訪楽器付属の松脂は「VIOLIN – VIOLA – CELLO -BASS」などとオールラウンドに使えるように書いてあるDESIGN in ITALIAN(笑)だが、チェロにはまるで使い物にならない。最初はこの黄色い松脂を使って弾いていたのだが、どうも粉がバラバラと散ってすぐに引っ掛かりが悪くなる。なので試しに以前ヤフオクで買った通称「黒猫」の類似品(中国製)の黒い松脂を使ってみたら断然弾きやすくなった。黒い方は粘り気のあるタイプなのだが、どうやら柔らかい方が弦が裏返らず持ちもいい。

欧州製のブランド松脂だとわざわざチェロ用とかヴァイオリン向きとか書いてあるのが多いが、やはりこうしてみるとちゃんと理由があるようだ。もちろん好みの問題もあるだろうから一概には言えないだろうけれど、やはり闇雲に弾くばかりじゃなくその理由を理解し、道具を選ぶことも重要なのだろう。いや、道具が良くなったからってまるで上手く弾けないし、結局はこんな理屈こねるより練習した方がいいんだが。

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