私のヴァイオリンの先生はよく言えば自由(悪く言えばルーズ)な人なので前の人のレッスンが延びて次の人の時間にかぶってしまうことがよくある。時々1時間ぐらい雑談してて次の人が来てしまうこともままある。まあそういうのは(フェルマータ=音を伸ばす)みたいなものとほとんどの生徒は割り切っているが。
で、こないだのレッスンでも前の人のレッスンが丸々30分ズレて待たされた。でも待つだけではもったいないので目線をそらしつつも注意深く聞いていると、ヴィブラートについて先生がこんなことを言っていた。
「ホラ、指はこんな風に下に回っちゃダメ。次すぐに弾けるよう準備しないと」
実は私もそうなっていたことに気がついた。危ない危ない。ヴァイオリンは合理的に体を使わないと演奏に支障が出る。指の形だのアゴの向き、呼吸法など、書き並べるとキリがないほど細かい部分を注意しないとならない。なのでレッスンの度に「弓の角度はこうじゃなくてこう!」とか「もっと指を立てて!」「ここで息を吸って!」などとダメ出しされる。
だがもしこれが変な先生だったら気づいてくれない。下手すると変なクセをつけられてしまうかもしれない。独学となったらなおさらでチェックしてくれる人がいないから大変危険だ。一度クセをつけるとなかなか直らないし下手すると体の故障の原因となる。私と同時期に通い始めた同年代の生徒さんが「前の先生は首の故障が多くて整体に通っていた」と言っていた。そんな人に習ったものだから変なクセをつけられてしまったらしく、音が伸び伸びと出せなかったらしい。というのもこないだの発表会のとき、その人は1年前に比べて見違えるように音が出ていた。フォーム矯正の結果が出ていたのだと思う。体に故障を抱えているような先生ではやはり演奏フォームに欠陥があるのだろう。
だがこれから習おうという初心者がそんな先生の良し悪しを見分けられる訳がない。それにヴァイオリンの流派にはロシア式とドイツ式があるため、教え方が違うからと言って不正解という訳でもない。また体型が特異な人にはそれに合った演奏法というのもある。髪の毛がインスタントラーメンのように不自由な人はこういう演奏法がいいのかもしれないし。なので正解は一つじゃない。
とはいえ色々検索して訪れる人も多いようなので、万年初心者を返上できない私が独断と偏見で本気で上手くなりたい人のためのヴァイオリン講師の見分け方をリストアップ。これから習おうと教室へ体験レッスンとか見学に行くときに注意してみるといいかもしれない。だが、くどいようだが私の独断と偏見なのでご注意を。
- 講師のキャリアが長い
- 音大合格者やプロが巣立っている
- ヴァイオリン由来の持病を持っていない
- レッスン中じっとしていない
- 大人であっても基本から、いきなり曲とか弾かせない
- 遠慮せずガンガン細かいところを注意してくる
- 音楽的にダメなら女子供だろうが容赦しない
- でも音楽以外の細かいことは気にしない
- 楽器は音色重視で値段はあまり気にしない
- でも自分の楽器は年代物だったりしてすごく高価だし、弓にこだわる
- モノを売りつけない、押し付けないけど相談するといい楽器商を知っている
- 演奏方法を具体的に示し抽象表現を使わない
- 譜面に書いていない呼吸やタイミングをうるさく指導
- モーツァルトはこう、ベートーベンはこう、という一家言を持っている
- でも誉め上手で個々の良いところを引き出してくれる
1、2はこだわるポイントではなく、講師としての実績があれば無難ぐらいに思った方がいいかと。3は前述した通り。4はよく動いて様々な角度から動きをチェックしたり、自分で模範演奏したりする人のこと。音大教授ならばイスに座って腕組んでても習う方も上級者だから問題ないだろう。だが初心者は先生に細かく体をいじってくれないとどうにもならない。あと自分で楽器を弾かない人は怪しい。口だけで教えられるんなら独学で十分なわけで。
5~7はサービス業としてはアウトなのだが、本気で上手くなりたいなら基礎から我慢しないとならない。私の先生も最初大人のレッスンは基礎をはしょって教えていたそうだが、結局先でつまづくから基礎からみっちりやらせることに方針変更したそうだ。テキストにセヴシックとか小野アンナ、マイア・バングを使う先生だったら間違いない。「とりあえず弾ける」でいいならすぐに曲を弾かせてくれるヤマハ音楽教室かスズキ・メソードへどうぞ。私もヤマハの「ポピュラーピアノ」に通ったけど悪くはなかったし(ただしいずれ壁にブチ当たる)。
8~11は音楽家として正しい人。こだわるところはとことんこだわるが、どうでもいいことは気にしない。やれ家族構成がどうだの、勤め先がどうだの、楽器の値段がどうだのとか、演奏とは全く関係ないことを聞いてくるのは高価な楽器を売りつけてリベートで儲けたい人かもしれない(基本音楽は食えないので多少は仕方ないが)。ただし楽器のチェックは必ず受けること。高くてもいい楽器とは限らないし弾きにくい楽器で始めると上達が遅くなる。楽器購入から始める人はまず先生に相談してから。商売っ気のない先生だと安く済む場合もあるので。
12~14はきちんと音楽が体系的理論的にわかっている人。「パーッと華やかに」とか「なんかこーもっと豊かに」なんてバブル期のTVプロデューサーみたいな説明しかできない人は自分が何故弾けているのかの理屈をわかっていない。苦労して技術を会得した人ほど弓の位置やスピード、角度などを数値的に教えてくれる。だが頭でっかちでもダメ。音楽として成り立たせる話法も持っていなければただのマシーン。
まあ厳しいことばかり書いたが、たまには誉めてくれないと長続きしないし自分が楽しくないので15も大事。また余談だが先生がこないだと言っていることが少しぐらい違っていても、大目に見られる寛容な心が習う側にも必要。先生だって人間なので完璧を求めてはいけない。もし相手に完璧を求めるなら、自分がそれ以上に完璧な人間になるか、それなりの対価を払ってから言おう。
数千数万のハシタ金で一流ホテル並みのサービスを求めるのはお門違いというもの。それに講師に優しさだけを期待するならヴァイオリンなど諦めた方がいい。人にものを教えてもらうためには自分がまず謙虚にならなければならない。本気で楽器習得しようと思うなら練習に耐えなければならない。そういう非常に退屈な作業をサボらず続けるため先生のカミナリも時には必要だ。もし子供にヴァイオリンをやらそうと思うけれども、我が子が他人に容赦なく怒られるのがイヤならヴァイオリンなんか持たさずチュッパチャプスでも舐めさせとけ。冷やかしで来られたらマジメに音楽やっている親・生徒たちに迷惑だ。大人も弾くのがメインじゃなく、どこかから拾ってきたウンチクを語りたいだけならこうやってブログとかツイッターでやっとけ。
あとイトコのブログに書いてあったけれど「女性講師じゃないと嫌だ」なんてのは論外。音楽スクール業界や楽器業界にとっては安易に楽器を始めて金をガンガン落としてもらった方がいいんだろうけど、出合いを求めたければ結婚相談所にでもどうぞ。ていうかその方が絶対早い。
てなわけでマジメにいい先生を探したい方はイトコのやっているこちらをどうぞ。と、イトコに無断で宣伝宣伝。