別に行くつもりじゃなかったのだけれど、先日キッチンニューほしのの感謝セールに行ってしまった。なんというかカレーの食いたい日ってあるよね。そう思ったら一直線。
日曜なので市場内の卸売りは休みで閑散。普段はほしのも休日らしいが感謝デーは日曜にやるらしい。CBで乗り付けたら入口にちょっといかつい顔の店主らしき50代の人が白ワイシャツに黒のスラックスで入口脇に立っていて「ようこそいらっしゃいませ」と出迎えてくれた。何となく黒服(夜のお店の用心棒)っぽい気もしないでもないが、お客様をもてなそうという姿勢が清々しい。
11時台に来たのだが店内は盛況。運良く待たずにカウンター席に座れた。この日はカツカレーのみの営業で、レギュラーかジャンボを選べてどちらも感謝デー価格500円(通常価格950円/レギュラー900円)。そうなるとジャンボを選んでしまう貧乏性。伝票のすぐ横に座っていたのだが、やっぱりJの文字が書かれているのがほとんどだった。ちなみにレギュラーでもカツの大きさは同じ。肉厚で上品な脂が乗った豚肉はそのままで食ってもジューシーで旨い。
カウンター席だったので厨房の様子が見れたのだけれど、カツは作り置きせずに注文分だけ揚げていた。それに衣付けすら作り置きしいないで足りなくなった時点でその場で肉に塩コショウして衣付けしている。作り置きするとパン粉が余計な水分を吸って食感が悪くなるからだろう。でもカツカレーしかやらない日なのにこれってすごいこと。ワンコインで提供しても普段と同じく味に妥協していない。だからと言って客を待たせてもいいという殿様商売はしていない。衣付けしてカツを揚げる一連の動作に澱みがない。それに客の出入りや注文数に注意しながら次を予測し、手の空いたときに片付けや下準備をしている。慌てている様子はないが無駄な動きがないので手が早い。私は学生時代に厨房でバイトしていたこともあるのでこの凄さがよくわかる。
カレーは中鍋でコトコト煮て保温鍋が空になったら補充していたが、空にした鍋にスープを足し、ヘラで鍋に残ったカレーを削ぎ落としていた。一見セコいとか汚いように見えるかもしれないが、心血注いで作ったソースはスプーン1杯ですら捨てないのが真の料理人。食べる側も敬意を払ってできる限り皿に残してはいけない。最近「俺は客だぞ? 金払ってるんだから残そうが何しようが勝手だろ?」という輩も多いが、そういうのは下品が服を着て歩いているだけ。肩ぶつかったらインネンつけるようなチンピラと同等。たとえ自分が優位にあっても料理人に敬意を払い、残さず「ごちそうさま」と言うのが紳士淑女のマナーだ。
都内のビルオーナーとホテルの最上階レストランで会食したことがあるが「残すともったいないから食べられるだけ注文しましょう」と言っていた。ケチだから金が貯まるというのもあるのだろうが、食べ物を残すというのはシェフへの冒涜というのもあると思う。皿にわずかに残ったものですら「ちゃんと食べて」と言われたが、英国超有名大学院卒のそのオーナーを卑しいと思う人は皆無だろう。これらは物や他人を気遣う余裕があるから自然にできること。心に余裕のないコンプレックスの塊みたいな輩が被害者根性でゴネ得する方がよっぽど卑しい。
さて、話が飛んだ。厨房内や給仕の間では先輩後輩の上下関係がしっかりしているようで、若いコックにカツの切り方など注意する料理長らしき人、注文を飛ばした若い男にやり方を注意するベテランぽいおばさんなど、目立たぬよう小声で先輩たちが指導しているのが見えた。客には笑顔で接しているが、裏ではピーンと緊張の糸が張り詰めているのが本物のプロ。客席にまで聞こえるような大きな音で調理や洗い物をしたり店員を怒鳴りつけている店や、アルバイトがマニュアル対応のおざなりサービスで私語ばかりという大手チェーン店のように、裏に回るといい加減なニセモノの店が多いが、そういった裏でも細かな気配りをして接客第一を考えている店にハズレはない。
カツを揚げるのに時間がかかるため、いつもよりだいぶ待たされたがようやくカレーが運ばれてきた。期待をこめてスプーンでひとすくい。うん、やっぱり旨いッ!